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思考実験「スワンプマン」をテーマに、読みやすい童話にしました。
考えさせるストーリーになるよう仕上げています。
まねっこミラーと森のふたり
むかしむかし、「ウツシの森」という、不思議な森がありました。
そこではときどき、“まねっこミラー”という黒い霧が立ちこめて、森を通るものの姿を、そっくりそのまま映してしまうことがあるのです。
この森のそばには、リュークという若い木こりが住んでいました。
リュークは、まじめで働き者で、森の木や動物にもやさしく接する心のあたたかい青年でした。
ある朝、リュークは森へ入り、いつものように木々の手入れをしていました。
そのとき、ふいに黒い霧が立ちこめ、あたりは見えなくなりました。
——そして霧が晴れたとき。森の奥に、もう一人のリュークが立っていたのです。
服も顔も、話し方も、思い出も、ぜんぶ同じ。本人さえも驚くほどに。
村に戻ると、村人たちは騒然としました。
「どうして二人いるの?」
「どっちが“本物のリューク”なの?」
ふたりのリュークは、どちらも昔の出来事を覚えていて、家族の癖も、失敗した木の切り方も、好きな歌の節まで、同じように話すのです。
村の長老は言いました。
「では、ふたりに“森の再生地”の世話をまかせよう。リュークは森を大切にしてきたはずだ。」
ふたりのリュークは、数日かけて森に木を植え、水を引き、動物の道を整えました。
- 一人は、計画を立てて黙々と仕事をこなし、
- もう一人は、虫の声に耳を傾け、花の咲く時期に合わせて草を植えました。
どちらも森を思い、どちらも見事な働きを見せました。
仕事を終えて帰ってきたふたりを見て、村人たちは言いました。
「……どっちもリュークだ。」
長老は静かにうなずきました。
「姿も心も、まったく違わぬふたりがいて、どちらも村を思い、森を愛している。では、どちらが“本物”で、どちらが“影”なのだろうな?」
村人たちは誰も答えられず、ただ、夕暮れの空を見上げました。
その日から、ふたりのリュークは、それぞれに森で働き、ときには語らい、ときには黙って並んで木を植えるようになったといいます。
――“あなたらしさ”とは、思い出の数? 行動の形? それとも“なぜそうするのか”という、心の軌跡?